【部下のやる気を引き出すフィードバック2】意外と気づかないパワハラの落とし穴
こんにちは
人材開発プロデューサーの増田崇行です。
「部下のやる気を引き出すフィードバック」第2回目の今回は、「上司と部下の会話」で避けては通れない問題、「パワハラ」の観点から進めていきたいと思います。
解決志向×パワハラを通して、第1回の続きである「BUT(改善ほしい部分)をどう伝えると良いのか」を考えていきます。
さて、パワハラを始めとしたハラスメントに対する世間の目は年々厳しさを増しています。もちろん、パワハラを許さない傾向は歓迎すべきことです。しかしその反面、「部下を思ってのフィードバックがパワハラだと言われてしまうのではないか」と上司にとっては少なからずプレッシャーになっているのではないでしょうか。実際私の研修でも、「以前より思い通りの指導ができなくなった」、「部下とのコミュニケーションが疎遠になってしまっている」などの声を多くいただくようになりました。
前回と同様にありがちな上司と部下の会話から、「パワハラ予備軍」とも言える上司のフィードバックを改善していくにはどうすればいいのか考えていきましょう。
とある上司と部下の会話
まず、YESBUT文脈は使わない。これが、前回のポイントでした。今回はその次のステップとして部下に改善してほしい部分=BUTをどう伝えるかにフォーカスしていきます。パワハラの多くはこのBUTの伝え方に問題があります。つまり、パワハラとは無縁のフィードバックを実現するにはこのBUTの伝え方がカギを握るのです。
では、以下の会話をご覧ください。前回と同様、企画書を納期遅れで提出した部下に対するフィードバックの場面です。
上司: 企画書の提出、ご苦労様。 でもさ、君はなんでいつも企画書の提出が遅れるわけ?部下: はあ。すみません。つい考え過ぎてしまって・・・ 上司: 部下:はあ。そうかもしれません…。 上司: 部下: 上司:たぶんまずは時間の使い方が間違ってる。それに、あれこれ余計な情報が多すぎて企画書として まったくなってない。そもそも、事業計画のことをちゃんと理解してないだろ。 部下: 上司: 部下:はあ・・・
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いかがでしょうか。
上の会話自体は前回と同じものですが、今回注目していただきたい部分はBUTの内容、つまり部下に改善してほしい点の伝え方です。
部下想いの上司とも言える
部下に改善してほしい点とは具体的には
・納期に遅れて提出したこと
・事業計画に沿ったまとまりのある企画になっていないこと
についてですね。
ここでは以上の点を
「でもさ、君はなんでいつも企画書の提出が遅れるわけ?」
「結局、事業計画に沿った企画になってないじゃないか。事業計画の目的を把握してポイントを掴めって、いつも言ってるだろ。まったく分かってないんだよな。」
などという表現で伝えています。
かなりはっきりした物言いです。しかし、上司の立場からすればこの表現には悪意などなく、本当に部下を思ってのことかもしれません。
果たして部下はどう受け取るのか
しかし、部下の立場になってみるとどうでしょうか。
上のフィードバックで上司は部下のダメな部分ばかりを指摘しています。上司としてはダメな部分さえ改善してもらえれば良いので、良かった点は伝える必要性はないと判断したのでしょう。
そのような考えがあったとしても「ここがダメ。そこもダメ。あそこもダメ。」ダメ、ダメ、ダメ、ダメ・・・。と否定ばかりされれば、部下は自信を失い、やる気どころではなくなりそうです。
それに加えて、上司は「なぜ、そうなってしまったのか」という、原因にも言及しています。
「そもそも、仕事の段取りが間違ってるんじゃないのか?」
「たぶんまずは時間の使い方が間違ってる。」
「そもそも、事業計画のことをちゃんと理解してないだろ。」
といった部分ですね。
以上の指摘は部下からすると、勝手な決めつけとしか思えません。「勝手な決めつけ」は上司から部下へ一方的に話を進めているだけになってしまいます。改善する当事者は部下のはずですが、部下が置いてけぼりになり改善は見込めないでしょう。
「パワハラ」の落とし穴にはまる
パワハラの一番の落とし穴は本人が気づかないうちに、表現がヒートアップし、結果的にパワハラになってしまうところにあります。「本人がパワハラに気づかないなんてあり得ない」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、上記の会話に登場する上司はまさにその落とし穴にはまりやすい人物ではないでしょうか。伝え手である上司にはそのつもりがなくても受け手である部下がパワハラをされていると思ったらそれはパワハラになってしまいます。
恐らくこの上司は部下に対して苛立ってはいますが、いじめたいわけではなく、純粋に次の仕事の成果を上げられるよう成長してほしいと思っているはずです。だから、出来ていない部分を指摘し、より改善しやすいように原因まで指摘しているのです。
しかし、部下に対してダメ、ダメ、ダメ、と言っているうちに、伝えてはいないものの気づいてはいた良い部分さえ分からなくなってしまいます。つまり、完全にダメな部分しかないと上司自身も錯覚してしまうのです。そして、ダメな部分しか見えなくなった上司は仕事について指摘するにとどまらず、勢い余って部下自身を否定する発言をしてしまいがちです。それはもうパワハラと言えるでしょう。
NOでコントロールしない
この深刻な状況をどのように改善していけば良いでしょうか。
やる気を引き出すには部下が歩み寄られている、成長を期待されていると感じ、その先に良い仕事があると思えることが必要です。
その第一歩として、今回のポイント「NOでコントロールしない」をご紹介します。
まず「NOでコントロールする」とは
出来ていない部分をダメ、ダメ、ダメとNOの表現で伝え、「だから、改善してほしい」という気持ちを相手に汲み取ってもらおうとする逆説的な表現です。
しかし、相手である部下に以上のように汲み取ってもらうのはかなり困難なことではないでしょうか。会話の難しいところは、相手がいつも自分の意図する通りに受け取ってくれるわけではないことです。だからこそ、伝い手が出来るだけ誤解を招かない伝え方をする必要があります。
そして、すでに解説したように「NOでコントロールする」と、部下のやる気が引き出せないだけではなく、上司自身もYESの部分(=良いところ)を見失い、結果としてただの説教、最悪の場合はパワハラになってしまいます。
NOでコントロールしないなら、どうすれば良いのでしょうか。「今の時代ついに部下に改善を促すことも出来なくなったのか」、そんなことはありません。NOがダメなら、YESを使えば良いのです。では、「YESでコントロールするとは何か」、こちらについては次回詳しく解説していきます。
以上、「意外と気づかないパワハラ予備軍」でした。最後までお読みいただきありがとうございます。次回は「0か100だけじゃない、50もある。」です。ご期待ください。